人が緊急事態を思い浮かべるとき、想像するのは打撃の大きさです。解雇、医療費、壊れたトランスミッション。けれど、乗り切れるかどうかを実際に決める計算は、式の反対側にあります。毎月の最小限の支出です。この数字には名前があります。最低限の予算です。ほとんどの人は一度も計算したことがなく、その欠けた数字一つのせいで、十分に乗り切れたはずの収入の衝撃が危機に変わります。
最低限の予算とは
最低限の予算は、普通の予算を少し削ったものではありません。明日、収入が止まり、緊急資金の1ドルまでを引き延ばさなければならなくなったときに、暮らしを保てる月々の最小の額です。ある一つの具体的な問いへの答えです。
もし毎月これだけで、期限なしに暮らさなければならないとしたら、いくらかかるか。
普通の予算と違う点が二つあります。
- すべてのカテゴリが、生き延びるための下限に設定される。 「食費を減らす」ではなく、それでも食べていける最も低い食費。「サブスクを減らす」ではなく、本当に止められないものだけ。
- 自由に使う項目は、すべて最初はゼロにする。 外食、旅行、服、趣味、贈り物、サブスク、何かの上位版。意図して一つずつ戻すまで、すべてゼロです。
これは、ずっとその額で暮らすための予算ではありません。万が一必要になったときのために、用意しておく予算です。
この一つの数字がすべてを変える理由
最低限の額がわかると、お金に関する四つの大きな問いが、ひとりでに答えを出します。
| 問い | 最低限の額が教えてくれること |
|---|---|
| 緊急資金はどれくらい必要か | 最低限の額 × カバーしたい月数(一般に3〜6) |
| 本当の財務上の余命(ランウェイ)は | すぐ使える貯蓄 ÷ 月々の最低限の額 |
| キャリアチェンジや減給に耐えられるか | 新しい収入が最低限の額以上なら大丈夫。貯蓄が差額を埋めてくれる |
| この大きな買い物はどれくらい危ないか | 最低限の額を押し上げるなら、一度きりのコストではなく恒久的なリスク |
この数字がないと、どの問いも当て推量です。「今の暮らし」と「生き延びるための必要額」を混同して貯めすぎたり、「切り詰めればいい」と思い込んで、それが実際に何を意味するかを計算せずに貯めなさすぎたりします。
最低限の予算のカテゴリ
最低限の予算は、どれも同じ5つの枠でできています。枠どうしの配分が、あなたに合わせて変える部分です。
1. 住まい
ほとんどの人にとって、最大の項目です。家賃または住宅ローン、固定資産税、義務の保険、基本的な光熱費(電気、水道、暖房、インターネット。インターネットは今や仕事探しに欠かせません)を含みます。任意のものは除きます。プレミアムなテレビのパッケージ、二つ目の動画配信、スマートホームのサブスクなどです。
自問してください。収入が止まったら、ここに住み続けるか。 正直な答えが「60日以内に、もっと安いところへ引っ越す」なら、今の額ではなく、安いほうの額を使います。最低限の予算は、今の住まいではなく、追い込まれたときに実際に選ぶ住まいを反映します。
2. 食費
ほぼ必ず多く見積もられます。最低限の食費は、自炊の食料品で、外食も、デリバリーも、外でのコーヒーもありません。具体的に考えます。先進国の都市で大人1人の現実的な食料品の下限は、1か月に自炊90食分に、コーヒー、油、調味料などの基本品を足した額くらいです。大人2人は2倍にはなりません。一緒に作るほうが効率的だからです。
除くもの:お酒、レストラン、職場の昼食、外で買う軽食、ミールキットのサブスク。
3. 交通
就職の面接と、食料品店に行くのにかかる額です。都市に住むほとんどの人にとっては、交通機関の定期か、車を1台、保険をかけ、必要な外出のための燃料を入れ、法的に登録しておく最低限の費用です。2台目の車、ライドシェアの習慣、休暇の運転、プレミアムのガソリンは除きます。
自動車ローンがあるなら、その支払いは最低限の予算に残ります。車を失わずに払うのをやめることはできないからです。最低限の予算は、契約上の義務に正直です。
4. 健康と保険
譲れないもの:健康保険料(またはあなたの国での同等のもの)、処方薬、基本的な歯のケア。除くもの:選択的な施術、プレミアムなジムの会員、サプリメント、ウェルネスのアプリ。
保険が雇用に結びついていて、収入の衝撃が解雇なら、継続するのに実際いくらかかるか調べてください。この額は、給与から天引きされる額に慣れた目には、驚くほど高いことがよくあります。
5. 必須の返済
既存の借金の最低返済額:奨学金(最低額で、繰り上げ返済ではなく)、クレジットカード(最低額)、自動車ローン、住まいに含まれていない住宅ローンの元本。それに、養育費、慰謝料、裁判所が命じた支払い。
最低という言葉に注意してください。最低限の予算は、どの借金にも法的に最小の額を払います。それが借金の戦略として良いからではなく、生き延びるとはそういうことだからです。収入が戻ったら、積極的な返済に戻ります。
含まれないもの
それ以外のすべてです。必須だと思いそうなものの多くも含みます。
- 動画配信や娯楽のサブスクすべて
- ジムの会員とフィットネスのアプリ
- レストラン、カフェ、デリバリー
- 基本を超える身だしなみ(3週間ごとではなく8週間ごとの散髪)
- 擦り切れたものの買い替えを超える衣類
- あらゆる旅行
- 贈り物、寄付、趣味
- 貯蓄と投資(一時停止。緊急資金が今は稼働中です)
- 子どもの習い事(契約でない限り)
リストを読み進めると冷たく感じるでしょう。これらが大切でないと言いたいのではありません。本当に収入が途絶えたとき、すべて止まります。そして普段の暮らしでそれらにいくらかかっているかを正確に知ることが、止めたときにどれだけ余裕が生まれるかを正確に教えてくれる、ということです。
計算の手順
紙でもアプリでも、同じようにできます。
- 3か月分の実際の支出を引き出す。 見積もりではなく、実際の取引です。ほとんどの人は、自分の支出を、どちらの方向にも20〜40パーセントずれて覚えています。
- すべての取引を「残す」か「なくす」にタグ付けする。 止めると働く力や身の安全が損なわれる場合にだけ「残す」。それ以外は「なくす」です。
- 「残す」カテゴリごとに、これが生き延びるための下限かを問う。 400ドルの食費の月は、外食をやめて自炊すれば260ドルまで縮むかもしれません。1,400ドルの家賃は、実際に引っ越すなら900ドルまで縮むかもしれません。今の額ではなく、下限の額を使います。
- 5パーセントの余裕を足す。 現実はスプレッドシートではなく、何かしら必ず起こります。余裕があれば、数字は正直なままです。
- また見つけられるところに結果を書いておく。 この数字は、これから先のお金の判断すべての背骨になります。
初めてやった人の多くは、今の毎月の支出より30〜50パーセント低い数字に気づきます。その差が、隠れたランウェイです。必要だと思い込んでいたけれど、必要ならじつは止められたお金です。
その数字をどう使うか
手に入れると、すぐに三つのことが変わります。
緊急資金の目標が具体的になる。 「生活費の3〜6か月分」というぼんやりしたルールではなくなります。最低限の額×3から、最低限の額×6になります。最低限の額が2,800ドルで、今の暮らしが4,400ドルかかるなら、3か月分と6か月分の緊急資金の差は、「途方もなく大きい」から「8,400ドル対16,800ドル」になり、理想ではなく現実の目標を選べます。
財務上のランウェイが計算できる。 すぐ使える貯蓄の合計を、月々の最低限の額で割ると、収入が完全に止まっても生き延びられる月数になります。月に一度更新してください。この数字が伸びていくのを見るのは、貯蓄残高を見るよりやる気が出ます。同じデータを、あなたが本当に気にしている時間に置き換えたものだからです。
リスクに対する感覚が変わる。 キャリアのリスク(退職、業界の転換、フリーランス)が評価しやすくなります。大きな買い物は正当化しにくくなります。月200ドルのサブスクを足すことは、200ドルがかかるだけでなく、最低限の額を恒久的に押し上げ、ランウェイを縮めるからです。
よくある間違い
「最低限」と「快適な切り詰め」を混同する。 普通の支出を10パーセント削っただけでは、最低限の予算ではありません。少し引き締めた普通の予算です。最低限とは、必要だと証明されるまで、自由に使う項目がすべてゼロであることです。
不定期の請求を忘れる。 年払いの自動車保険、四半期ごとの固定資産税、毎年更新する資格。それぞれを月あたりに換算して入れてください。そうしないと、そのどれかが来たとたんに、数字が嘘をつきます。
恒久的な予算として扱う。 こうやって暮らすべきだという意味ではありません。どこまで落ちるかを知るために存在する下限です。最低限で何年も暮らすと、貯める人は燃え尽き、続くことはほとんどありません。生活様式ではなく、計画の道具、そして予備のモードとして使ってください。
一度計算して忘れる。 最低限の額は動きます。新しい契約、新しい扶養家族、新しい固定費が、どれも押し上げます。6か月ごと、そして引っ越し、子ども、新しい自動車ローン、結婚といった大きな変化のあとに、計算し直してください。
ストレステストをしない。 その数字は、悪い月を一度は乗り越えられるはずです。試しにやってみましょう。働いているうちに、意図して2週間、最低限で暮らしてみます。最初に崩れるカテゴリが、きつく設定しすぎたところです。
thrustでの使い方
thrustは、最低限の予算の計算を、理屈ではなく具体的なものにします。
- 実際の取引履歴。 入力に必要なのは、見積もりではなく、3か月分の実際の支出です。thrustは、カテゴリ別に整理されたきれいな取引の記録を用意します。「残す」と「なくす」の仕分けの材料です。
- スマート予算。 カテゴリごとの最低限の額が決まったら、その下限で予算を設定し、「普段の暮らし」と「生き延びる暮らし」を並べて見られます。各カテゴリが最低限の目標に対して追跡されるので、いつでも下限にどれだけ近いかがわかります。
- 多通貨対応。 最低限の額は月ごとですが、家賃はある通貨、給料は別の通貨、貯蓄はさらに別の通貨かもしれません。thrustは20以上の通貨をリアルタイムのレートで追跡するので、暮らしが国境をまたいでも、数字は正確なままです。
- オンデバイスのAI CFO。 使えるお金と支出ペースは、実際の予算の目標に対して、iPhoneの中で、何も端末の外に出さずに計算されます。最低限の額を下限に設定すると、今月はそれより上か下かをAIがリアルタイムで示します。ストレステストにも、ずれの発見にも役立ちます。
- 財務ランウェイの表示。 すぐ使える残高の合計を月々の支出で割ると、ランウェイが月数で出ます。その月々の額を最低限の額にすれば、収入が完全に止まっても何か月生き延びられるかがわかります。手に入れたあとは、家計管理でいちばん安心できる数字です。
- Ghost Mode。 有効にするとネットワークへのアクセスを止めます。基本的な記録と分析はオフラインで続けられますが、リアルタイムの価格、ダウンロード、iCloud同期は使えません。
最低限の予算は、暮らすための予算ではありません。危機のときに、乗り切れるかどうかを悩まなくて済むよう、作っておく予算です。数字を一度計算し、最新に保てば、つきまとっていたお金の不安の大半は静かに消えます。安全でいるのにいくらかかるのか、ようやく正確にわかるからです。